身体に負担の少ない巻き爪の矯正治療 3TO / VHO法について

高齢者や糖尿病、末梢動脈疾患、血液透析、膠原病や膠原病類似疾患、喫煙者、切断既往などを有する患者は、足病変ハイリスク群と言われています。これらの足病変ハイリスク患者さんでは、巻き爪や陥入爪が下肢切断の初期原因となることは一般的にはまだまだ認識が不十分なのが現状です。

日本フットケア足病医学会(日本フットケア学会と日本下肢救済・足病学会が2019年に合併)などの学会が設立され、糖尿病患者さんを対象としたフットケアや足病診療の重要性が取り上げられるようになってきました。

竹内もフットケア・足病診療に10年以上関わっており、頑張って日々の診療を行なっていますが、巻き爪や陥入爪などの爪病変に対する治療は、まだまだ重要視されていないのが現状であることを実感しています。足病変ハイリスク患者さんの爪病変を積極的に治療することは、切断回避のみならず、患者さんの生活の質の向上のためにも重要であると考えています(1)

さらには、治療することによって自覚症状に改善が得られて疼痛なく歩行できるようになれば、運動療法を積極的に行うことができるようになります。運動療法は生活習慣病のリスクファクターである高血圧症に対しては血圧を安定させたり、糖尿病に対しては血糖値を安定させたりする効果が期待できるのです。

以前からも当クリニックの受診動機で「巻き爪、陥入爪」は多いのですが、最近、何がきっかけかは分かりませんが、増えているように思います。

(VHO(3TO)法について)

a)治療法

当院では開業からこの1年でのべ630趾に対して3TO/ VHO法による巻き爪治療を行いました。これまでの治療件数としては、前病院から累積するとのべ5000趾はゆうに超えているかと思います。

日本ではVHO法(Virtuose Human Orthonyxie)という名称が一般的に使われることが多かったですが、国際的には3TOスパンゲと呼称されています。専用のワイヤー鋼をカットして両サイドのフックを形成し、それらのフックを巻き上げワイヤーで固定する3ピース構造となっています(図1)。

 

ワイヤーは通常のタイプでは直径0.4mmのものを使用します。

b)利点と欠点

 

利点としては、麻酔が不要であること、施術に苦痛を伴うことは極めて少ないこと、治療期間中でも日常生活に支障がないこと、治療後は自然な爪の形状が保たれること、深爪の状態でも治療可能であることなどがあげられる。手術した場合の術後疼痛、醜く治癒した爪の形状、手術(爪を抜いてしまう抜爪手術法)自体にかかる費用を考えれば、3TO / VHO法は自由診療であってもそれほど高いものではないでしょう。

3TO / VHO法はこのように利点が非常に多く、患者さんの満足度が大変高い治療法であると言えます。欠点としては、日本では保険適用されないため自由診療(健康保険が使えない診療)となること、施術にやや時間を要すること、長期の治療期間が必要なことなどがあげられます(平均治療期間10-12ヶ月:病状、年齢によって異なります)。利点と欠点を下記に列記します。

 

(利点)

 

(1)出血を伴う手技を必要としない

(2)麻酔不要で手技に疼痛を伴うことが少ない

(3)頻回な通院を必要としない

(4)術後安静が不要である

(5)患者満足度が高い など

 

(欠点)

(1)保険適応外であるため、自由診療となる

(2)約3ヶ月毎の交換が必要

(3)VHO法を考案した会社のライセンスがないと施行できない

(4)細かい作業が必要

(5)治療期間が長い など

 

(利点)

 

 

(1)1ヶ月ほどで完治する(あくまで傷が治ることを完治とすれば)

(2)健康保険内で治療を終えることができる。

(欠点)

  • 術後の疼痛が強い
  • 再発することも少なくない

(3)受けた患者さんが高齢なった時に「踏ん張りが効きにくくなる」、「転びやすい」などのトラブルが出やすい。

(4)手術した爪がまた巻いてきて巻き爪になることも多い

 

c)3TO/VHO治療の実際

(1)専用ワイヤーを爪の幅に合わせて切り、爪の弯曲の形態に合わせてワイヤーを形成します

(2)形成したワイヤーを両側の爪甲側縁に掛けて、巻き上げワイヤーを装着、フックを用いて巻き上げ、爪甲上で固定した後にワイヤーをカットします

(3)余剰ワイヤーをカット後、ワイヤーの固定部分を紫外線硬化ジェルで保護

 

手術(抜爪術)の利点と欠点

します

上記の手順で施術を行います。爪甲の両側側縁は巻き上げワイヤーで締め上げることで、上方への矯正力が働くようになります(図2)。個々の症例の重症度にもよりますが、所要時間は1趾あたり約5〜7分程度です。

 

(巻き爪と陥入爪について)

巻き爪や陥入爪は全国での推定罹患数は不明であるが、実臨床の場において罹患患者が多いのは既知のことであろう。しかし疾患特性からなのか、巻き爪や陥入爪になっても早期に医療機関を受診しないことも多く、受診したとしても熱心に治療する医師は少なく、治療は軽視されがちです。

患者側はどの診療科を受診するのが良いのか分からず、また診察した医師側も、どの診療科に紹介するのが望ましいのか分からないのが現状でしょう。これらのことは、爪診療における問題点の一つであると考えています。

巻き爪は爪が横方向に巻いている状態であり、弯曲爪とも言う。一方、陥入爪は爪甲側縁が機械的刺激によって爪甲周囲の軟部組織に損傷を与えて炎症を起こした状態のことを言います。陥入爪は慢性炎症によって炎症性肉芽を形成したり、側爪郭の変形を来したりすることが多く、細菌感染と混同されることがある。

医療関係者であっても、巻き爪と陥入爪を同意語に扱っていることがあるが、違った病態であり区別が必要です。

陥入爪は巻き爪よりも疼痛が強いことが多いですが、自覚症状と爪の弯曲の程度とは必ずしも一致していません(3)。巻き爪を合併すると治療に苦渋する症例も多く、治癒に時間を要します。

 

(巻き爪の治療方針)

巻き爪の治療方針を示します(図3)。まず3TO / VHO法は自由診療となるため、全額自費での治療を承諾されることが前提となります。治療前のADLとして、歩行出来るかどうかの状態は重要な点です。

足の爪は足趾の保護だけではなく、歩行時に足趾に力を入り易くして、身体を支える重要な働きがあります。健常人は荷重歩行していることで、足の爪は地面からの力を押さえ、巻き爪になりにくい状態を保っています。

したがって足趾に体重をかけて歩行できる症例のほうが、治療終了後の再発は少ないことが報告されています。寝たきり状態の患者さんに治療を行っても、巻き爪の改善を得ることはできますが、足趾に荷重をかけることが出来なければ、早期に巻き爪が再発してくることが予想されます。

寝たきりや歩行不能などADL不良の場合は、疼痛などの自覚症状があれば、治療適応となりますが、自覚症状がない(糖尿病性神経障害を有する患者は除く)場合は、リスクの有無に関わらず、爪溝ケアや爪切りなどのフットケアを行い、経過観察を行うこととなるでしょう。

足病変のリスクファクターは糖尿病、閉塞性動脈硬化症などの下肢血流障害、高齢者、切断既往、血液透析、膠原病、膠原病類似疾患、ステロイド服用などが知られています。ハイリスク群であれば、ADLが不良かつ自覚症状のない場合であっても、再発の可能性を説明した上で治療を行うこともあるでしょう。

ADLが良好な場合は、疼痛があれば治療適応です。疼痛が無い場合では、リスクが低い症例であれば経過観察とすることもありますが、ハイリスク群であれば、治療希望の場合は積極的に治療を行っています。これは予防的フットケアと言えるでしょう。

リスクが高い症例では、足白癬・爪白癬の合併も多く(4)、検鏡で爪に真菌が陽性の場合は、肝機能に問題が無ければ、抗真菌剤の服用も検討する必要があります。

 

(陥入爪の治療方針)

陥入爪の治療方針を示します(図4)。前述のように巻き爪を伴っているかで治療方針が異なります。巻き爪が原因の場合は過去に陥入爪の既往がなければ、まずはガター法(5)を行うことがあります。硝酸銀やステロイド軟膏を用い炎症性肉芽を軽減させて疼痛の改善を得た後に、3TO / VHO法を行います。

症例によってはガター法なしに3TO / VHO法を行うこともあります。炎症を繰り返す場合であっても、爪甲温存のために、まずは3TO / VHO法を勧めています。

しかし罹患期間も長く早期に完治を希望される場合は、基礎疾患やリスクの程度を考慮した上で、爪母焼灼法であるフェノール法も検討します(6)

巻き爪を合併していない場合は、過去に陥入爪の既往がなければ、ガター法を選択するがあります。また炎症を繰り返している症例でも基本的にはガター法を選択しますが、爪甲幅が趾幅に対してオーバーサイズな症例も多く、そういった症例では、フェノール法を行うことが多いのが現状です。

症例によって細菌感染を合併していれば、抗生剤治療も外用ないしは内服を同時におこなう必要があると考えていますが、前述のように、炎症性肉芽だけのことも多く、不必要な抗生剤の服用は有害です。

それよりは、自宅で毎日確実にシャワー洗浄を確実に行ってもらうように指導することが重要だと考えます。

巻き爪の症例でも同様ですが、不適切な靴を履いていることも多く、症状悪化の一因となっています。靴の選択や履き方の指導を治療開始と同時に行うことで、治療期間の短縮化を図れることも多いです(7)。また、深爪習慣が原因のことも多く、正しい爪の切り方を指導しておくことも大変重要なことです。

 

(まとめ)

巻き爪の治療や陥入爪の治療の場合であっても、爪を温存する治療方針が理想的であると考えています。以前はすべて外科的治療に頼っていたが、現在では、3TO / VHO法(8)や超弾性ワイヤー法などの爪温存治療が良い治療成績を上げています(9)。外科的治療法は長期予後的に、爪変形をもたらすこともあり、再発例の治療には難渋させられます。

筆者は3TO/VHO法を年間に600-700趾ほど施行していますが、すべての症例にワイヤー法による爪温存療法が望ましいとは考えていません。

現在の日本では、ワイヤー矯正法をはじめとする矯正具を用いた治療には医療保険は適応されていなのが現状です。また、矯正治療法は基本的には爪が生え替わるまでが治療期間であるため、長期の治療期間が必要となることが欠点です。

よって、自費診療の支払いが不能な場合や短期の治療を希望される場合は、手術を選択する場合が多いです。この場合も長期的に再発する可能性があることを充分に説明した上に手術を行う必要があります。また、その際の爪幅もなるべく保つ努力が必要です。

決して安易に手術を選択してはなりません。特に創治癒が困難な糖尿病や血流不全の患者においては、なおさらのことです。

筆者は過去に陥入爪を繰り返している病歴がある場合や、ワイヤー矯正しても、明らかに趾幅に対して爪幅が広くなる陥入爪の症例に対しては、第一選択で手術を勧める場合もあり、臨機応変に対応しています。

安易に抜爪などの外科治療を行う医師も依然として多く、また、すべての症例をワイヤー治療で治療する医師もおり、今後は学会としてもコンセンサスをまとめていく必要性を感じています。

しかし、日本はまだ矯正具を使用した治療法に対して、保険診療が認められていないこともあり、個々の症例に対して、対応していかなければなりませんが、症例のリスクを十分に踏まえて、治療方針を決定することが重要です。

現在のところ、巻き爪に対する治療法は3TO / VHO法、超弾性ワイヤー法以外の治療法も多く行われている。3TO / VHO法のようにライセンスが必要な治療法もあれば、講習を必要としない治療法もあります。3TO / VHO法や超弾性ワイヤー法を代表とするワイヤーを用いた治療法は、治療時や治療後に軟部組織を損傷する危険性があることを十分認識して治療する必要があります。

また、軟部組織の損傷が確認された場合や、感染を合併した場合には、トラブルに対する治療を速やかに開始しなければならない。我が国では医療職以外の一般職種の医療行為については認められていません。

類似品などを使用した治療法が接骨院などでも施行されているようですが、今後は、どこまでが医療行為であるのかといった法的な問題点も整備していく必要があります。法外な価格を請求している情報も患者さんから直接聞いていますので、この点についても注意が必要です。当院がご自宅から遠く通院が困難な患者さんもおられるかと思いますが、安心、安全な施設で治療を受けられることを強く願います。

筆者は3TO/VHO法をこれから始めようとしている医師に対しての指導も行う立場にあり、施術のライセンスを与える年3-4回の実技講習の講師も担当しています(主に浅草 バン産商株式会社:FSIにて)。

 

今回は2019.12.1に出張講座にて名古屋にて開催し、9名の受講者に実技講習を実施しました。講座開始前には恒例の出張ラン、名古屋城近郊の名城公園周囲を10kmランニングしました。

当院にて巻き爪、陥入爪の治療を受ける多くの症例は、足病変のリスクを多く有しています。生命予後改善のためにも足病変だけを治療するのではなく、同時に合併症管理やハイリスク症例の予防的治療も積極的に行っていく必要があります。特に高齢者に対しての治療は、ADLやQOLを低下させない治療方針を選択することも重要です(10)

さらには、ハイリスク症例においては巻き爪、陥入爪が、下肢切断の初発原因となりうるということを、患者や家族へ理解を得るように啓発していくことも重要であると思います(11)。重要なことはいくつもあるが、まず医療者が患者の足を見ることが最も重要なことであると考えています。

 

現在、「巻き爪・陥入爪」のホームページは内容を充実させるように準備中です。少しでも安心で質の高い治療を受けていただけるようにお読みいただければと思います。

 

<筆者文献>

3TO(VHO)法による巻き爪・陥入爪治療:竹内一馬

日本フットケア学会雑誌:2013年第11巻2号 60-64 からホームページ用に改変

 

<引用文献>

(1)Norbert Scholz:陥入爪に対するVHO式処置法-VHO式爪矯正シュパンゲによる保存的治療-.Monthly Book Derma 87,15-23,2004

(2)河合修三:VHO式爪矯正法による陥入爪,巻き爪の治療.大阪皮膚科医会会報,6,26-42,2005

(3)運動器診療最新ガイドライン:塩之谷香:III.部位別のガイドライン 足・足関節部の疾患 巻き爪・陥入爪の治療指針,総合医学社,2012

(4)渡辺晋一,西本勝太郎, 浅沼廣幸ほか:本邦における足・爪白癬の疫学調査時成績.日皮会誌,111,2101-2112,2001

(5)Wallace W, Milne DD, Andrew T: Gutter treatment for ingrowing toenails. Br Med J.,21,168-171,1979

(6)木股敬裕,上竹正躬:フェノール法による陥入爪の治療成績.形成外科,35,179-190,1992

(7)塩之谷香:鶏眼・胼胝・陥入爪に対する靴の影響,Monthly Book Derma,123,52-59,2007

(8)倉片長門,鈴木啓之:陥入爪の成因の検討ならびに陥入爪に対するVHO法の効果について,日皮会誌 ,114,173-178,2004

(9)塩之谷香・五味常明:NHKあさイチ 女性の大敵! 足のトラブル解消術. NHK出版,42-58,2012

(10)糖尿病の療養指導:日本糖尿病学会編,糖尿病の足病変とフットケア,竹内一馬:4 循環器系外来で行うフットケアとフットウェア診療システム,診断と治療社,166-170,2011

(11)竹内一馬,蔡顯真, 森重徳継 他:福大病院における重症虚血肢への取り組み(診療科連携の重要性).福大医学紀要,37(2),83-89,2010